手仕事とコーヒー

 何人かで集まっておしゃべりをしながら、それぞれに縫いものや編みものをする。合間にはコーヒーとお菓子で休憩し、そのあいだも話に花が咲く――。気の置けない仲間たちとのこうした集まりは、スウェーデンでは「syjunta」(スィーユンタ)と呼ばれてきました。「sy」は縫うという意味、「junta」は小さなグループという意味です。

 その始まりは19世紀半ば。教会に集う女性たちが、資金集めのバザーに出品するために衣類やリネン類などの縫いものに取り組みました。当時は工業化が始まったばかりで、布地や糸は既製品が流通するようになっていましたが、縫製はほとんどが女性たちの手仕事によるものでした。

 教会は毎回、コーヒーとお菓子を準備して女性たちをねぎらいました。これ以来、女性たちの集まりにはコーヒーが付き物となっていったと言われています。

 女性が家庭の外で活動する機会が限られていた当時、みんなでおしゃべりをしながら作業をすること、一緒にコーヒーを飲むことは、日常をうるおす大切な時間だったにちがいありません。さまざまに会話が弾み、それが女性たちの活力となり、次の集まりへの誘因にもなっていたのでしょう。

 この習慣はすぐにスウェーデン各地に広まり、やがて教会の外にもsyjuntaがつくられるようになります。裕福な層の女性たちの間では、針仕事や編みものはせず、もっぱらコーヒーとおしゃべりを楽しむ「kafferep」(カッフェレープ。小さなコーヒーパーティ)が1930~40年代に流行しました。

 いまでは、集まって編みものをしながらコーヒーとおしゃべりを楽しむ「stickcafé」(編みものカフェ)が人気で、街のカフェや小さな村の集会場などで頻繁に開かれています。手を動かすこと、人と会って話をすること、美味しいコーヒーとお菓子。楽しい刺激が詰め込まれた時間です。

 みなさまもぜひ、こうした楽しみを日常に取り入れてみませんか。季節にあわせた手仕事ワークショップを開催する「北欧クラフトサロン Fika och hemslöjd(フィーカとヘムスロイド)」では、コーヒーとお菓子を用意してみなさまのご参加をお待ちしております。〔O〕

参考文献
Valeri, Renée. “Kom så tar vi en kopp!” i Frykman, J., Bringéus, N. & Löfgren, O. (red.) Svenska vanor och ovanor. Stockholm: Natur och kultur. 1991.
Eklöf, Matilda. “Syföreningen: ett kvinnligt kulturarv.” i Hej livet. nr.3, 2021. Svenska kyrkan Norrköping.

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